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筋肥大のメカニズム③ MGF

前回は、IGF-1(インスリン様成長因子1)というホルモンがどのようにmTORC1を活性化させるのか、トレーニングがどのようにIGF-1分泌の増加に影響するのかについて書きました。

motchy-blog.hatenablog.jp

今回は、筋肉内に存在するIGF-1の一種であるメカノ成長因子(MGF:mechano growth factor)について書いていきます。

MGFとは

MGFとは、IGF-1のスプライシングバリアントの1つです。
スプライシングバリアントというのは、真核細胞においてmRNA前駆体を選択的スプライシングすることによってできるアイソフォームのことです。

ブタIGF-1ゲノムの構成とタンパク質構造を例にわかりやすく説明します。

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出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3795771/

ブタのIGF-1遺伝子は、エクソン1(橙)・エクソン2(緑)・エクソン3(黄)・エクソン4(青)・エクソン5(赤)・エクソン6(紫)・プロモーター領域(灰)を持ちます。これらが選択的スプライシングされることによって、エクソン3, 4, 6からなるIGF-Ea、エクソン3, 4, 5をからなるIGF-1Eb、エクソン3, 4, 5, 6の一部(紫斜線)からなるMGF(IGF-1Ec)が作られます。
元は同じ遺伝子でも、スプライシングによってできるアイソフォームをスプライシングといいます。

IGF-1は、作用する全身の組織でも分泌されるとお伝えしていましたが、IGF-1Eaは特に肝臓で産生されるアイソフォーム、IGF-1Eb, MGF(IGF-1Ec)は特に肝臓で産生されるアイソフォームです。

筋肥大に大きく影響するという点に関しては、3つのアイソフォーム全てに共通しているのですが、MGFは作用機序や分泌されるきっかけが異なっています。

MGFの作用機序

最初に、MGFに関しては解明されていないことが多数あるということをお伝えしておきます。

筋に張力センサーがあり、筋にある閾値以上の張力が発生したり、筋が損傷したりすると、筋でMGFの産生が増加します。
前回書いたように、一般的に運動によって成長ホルモンが増加することによってIGF-1の産生が増加しますが、MGFは成長ホルモンが増加しても産生が増加しません。MGFは筋そのものへの機械的刺激がきっかけとなることが一番の大きな違いです。
これが、メカノ成長因子の名前の由来でもあります。

また、通常IGF-1はIGF結合タンパク質(IGFBP: Insulin-like growth factor-binding protein)と呼ばれるタンパク質と結合して血液中を輸送されているのですが、MGFはIGF結合タンパク質と結合しないことが分かっています。
運動後に筋内のMGFは増加するのに対し、血清中のMGFは増加しないという論文もあります。
更に、MGFはIGF-1受容体に結合せずに、核内で直接作用するという論文もあります。

これらのことから、IGF-1のようにトレーニング後に全身に作用するのではなくトレーニングを行った部位にのみ作用し、細胞内では一般的なIGF-1受容体を介した細胞内シグナル伝達経路とは異なる2つの作用経路が仮説として想定されています。

1つめは、ERK1/2を介する経路です。
論文によると、筋芽細胞にMGFを加えたところ、活性化ERK1/2が増加したそうです。しかし、一般的なIGF-1によって活性化されるAKTは活性化しませんでした。
そして、RAF→MEK→ERK1/2経路が筋芽細胞の増殖を促進するという過去の研究結果を踏まえ、MGFは筋芽細胞を増殖させることによって筋肥大に影響しているのではないかと考えられています。

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出典:https://www.frontiersin.org/files/Articles/111902/fphys-05-00357-HTML/image_m/fphys-05-00357-g002.jpg:image=https://www.frontiersin.org/files/Articles/111902/fphys-05-00357-HTML/image_m/fphys-05-00357-g002.jpg

2つめは、核内で直接RNAの転写を促進することが考えられています。それによって、筋タンパク質の合成を促進し筋肥大に影響している可能性も考えられています。

レーニングとの関係

上にも書いたように、MGFは閾値以上の機械的刺激によって産生が増加します。
そして、MGFはERK1/2を介して筋芽細胞の増殖を促進し、IGF-1はPI3K-AKT経路を介してmTORC1を活性化し筋タンパクの合成を促進します。
このように、IGF-1とMGFは排他的に働いているので、どちらの産生も増加させることができるような、ある程度の高重量・高強度のトレーニングが筋肥大には重要と言えます。

しかし、高重量を扱わない血流制限トレーニング(BFR)やHIITでも筋肥大が認められています。
次回は、これらに関与すると考えられているHIF-1についてまとめていきます。

最後まで読んでくださってありがとうございました。

参考

  • Zsolt Radék(2018) 『トレーニングのための生理学的知識』 樋口満監訳 市村出版.
  • 坂井建雄・河原克雅編(2017) 『人体の正常構造と機能 改定第3版』 日本医事新報社.
  • Schlegel W, Raimann A, Halbauer D, Scharmer D, Sagmeister S, Wessner B, Helmreich M, Haeusler G, Egerbacher M. Insulin-like growth factor I (IGF-1) Ec/Mechano Growth factor--a splice variant of IGF-1 within the growth plate. PLoS One. 2013 Oct 11;8(10):e76133. doi: 10.1371/journal.pone.0076133. PMID: 24146828; PMCID: PMC3795771.

  • Yang SY, Goldspink G. Different roles of the IGF-I Ec peptide (MGF) and mature IGF-I in myoblast proliferation and differentiation. FEBS Lett. 2002 Jul 3;522(1-3):156-60. doi: 10.1016/s0014-5793(02)02918-6. Erratum in: FEBS Lett. 2006 May 1;580(10):2530. PMID: 12095637.

  • Philippou A, Papageorgiou E, Bogdanis G, Halapas A, Sourla A, Maridaki M, Pissimissis N, Koutsilieris M. Expression of IGF-1 isoforms after exercise- induced muscle damage in humans: characterization of the MGF E peptide actions in vitro. In Vivo. 2009 Jul-Aug;23(4):567-75. PMID: 19567392.

情報が間違っている場合や他者の権利に抵触している場合は、お問い合わせフォームよりご連絡ください。

筋肥大のメカニズム② IGF-1

前回、筋肥大にはmTORC1の活性が鍵となるとお伝えしました。

motchy-blog.hatenablog.jp

今回は、mTORC1の上流にあるIGF-1について解説します。

IGF-1とは

IGF-1とは、Insulin-like growth factor 1 の略称のことで、日本語ではインスリン様成長因子といいます。古い呼び方では、ソマトメジンCとも呼ばれます。
インスリン様と呼ばれるように、インスリンに似た構造をしておりタンパク質ホルモンです。受容体は細胞膜上にあり、受容体チロシンキナーゼです。

体内では、主に肝臓で内分泌(エンドクリン)ホルモンとして産生されます。
受容体は体中のほぼ全ての細胞に存在し、特に骨格筋、軟骨、骨、肝臓、腎臓、神経、皮膚、造血系、肺の細胞に対して成長を促進します。DNA合成の調節も行っています。
また、これらの標的となる多くの組織でもIGF-1を産生することができ、傍分泌(パラクリン)や自己分泌(オートクリン)によっても細胞の成長を促進しています。
インスリン抵抗性やエストロゲンの制御にも関与していると言われています。

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出典:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29743295-40-years-of-igf1-understanding-the-tissue-specific-roles-of-igf1igf1r-in-regulating-metabolism-using-the-creloxp-system/?from_term=igf1&from_pos=1

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

IGF-1の作用機序

IGF-1の産生は主に脳下垂体前葉から分泌される成長ホルモン(GH:growth hormone)によって制御されています。
成長ホルモンが筋肉や肝臓などの成長ホルモン受容体に結合すると、IGF-1の産生が増加します。

そのため、サプリメントなどで摂取することは、オリンピックなどの多くの国際大会などでドーピングとして禁止されています。しかし、成長ホルモンの分泌を促進することで知られている物質があります。それはアミノ酸のアルギニンです。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

アルギニンの摂取は、ボディービルダーの間で好んで行われています。
成長ホルモン分泌刺激試験のために医療現場でも使われています。

また、タンパク質摂取が多いほどIGF-1多いという研究もあります。

IGF-1が受容体に結合すると、受容体が活性化して自己リン酸化を起こしIRS1/2をリン酸化し活性化させます。活性化したIRS1はPI3K という酵素を活性化します。PI3KはAKTを活性化し、AKTはTSC2を阻害します。更ににAKTはRaptorからPRAS40を解離させ、PRAS40を阻害します。TSC2とPRAS40はmTORC1の阻害因子なので、IGF-1によってmTORC1が活性化します。
これによって、筋肥大が促進されます。

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出典:https://www.frontiersin.org/files/Articles/111902/fphys-05-00357-HTML/image_m/fphys-05-00357-g002.jpg:image=https://www.frontiersin.org/files/Articles/111902/fphys-05-00357-HTML/image_m/fphys-05-00357-g002.jpg

レーニングとの関係

70%VO2maxや70%1RM以上といった高強度のの筋力トレーニングを行うと、トレーニングの10〜20分後に成長ホルモン濃度が増加します。
成長ホルモンの刺激によって肝臓や筋におけるIGF-1の分泌が増加し、筋肥大を促進します。

また、機序は未解明な部分があるものの、トレーニングの物理的刺激によっても筋におけるIGF-1の分泌が増加するということが分かっています。

高強度の物理的刺激によって筋が損傷し炎症が起こると、筋にマクロファージが集まってきます。集まってきたマクロファージは、筋を回復させるためにIGF-1を分泌するということもわかっています。

このように、高強度のトレーニングによるIGF-1の分泌の増加がmTORC1の活性を促し、筋肥大に大きく影響しています。
次回は、IGF-1の亜型であるメカノ成長因子(MGF:mechano growth factor)についてまとめていきます。

最後まで読んでくださってありがとうございました。

参考

  • Zsolt Radék(2018) 『トレーニングのための生理学的知識』 樋口満監訳 市村出版.
  • 坂井建雄・河原克雅編(2017) 『人体の正常構造と機能 改定第3版』 日本医事新報社.
  • ollier SR, Casey DP, Kanaley JA. Growth hormone responses to varying doses of oral arginine. Growth Horm IGF Res. 2005 Apr;15(2):136-9. doi: 10.1016/j.ghir.2004.12.004. Epub 2005 Jan 26. PMID: 15809017.

情報が間違っている場合や、他者の権利に抵触している場合はご連絡ください。

筋が力を発揮するメカニズム

前回、筋が発達するのは「筋に対するストレスに適応するため」であり、そのストレッサーとして、物理的刺激と化学的刺激があることを書きました。
その刺激は、今持っている自分の能力を100としたら、101の刺激で十分ということもお伝えしました。

motchy-blog.hatenablog.jp

次は101の刺激に必要なトレーニングの重量やセット数などが気になるところですが、それを理解するためにまず筋が力を発揮するメカニズムについてお伝えします。

筋の構造

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引用元:骨格筋の構造|解剖生理をおもしろく学ぶ|看護roo![カンゴルー]

筋原線維

筋原線維とは、筋細胞の内部にある筋フィラメントが規則的な束のことで、タンパク質の塊です。
念の為説明しておくと、「フィラメント」とは、細長い線状のタンパク質の総称のことです。
筋フィラメントには、アクチンフィラメントと呼ばれる細いフィラメントと、ミオシンフィラメントと呼ばれる太いフィラメントの2種類があります。
これらが規則正しく交互に配列することによって筋原線維の横縞が作られます。

詳しくは後日追記します。

筋繊維(筋細胞)

筋繊維(筋細胞)は、通常の細胞と同じように細胞膜(筋細胞膜)を持ち、細胞内に細胞小器官やタンパク質をもった一つの細胞です。
通常の細胞との違いは、多核細胞であることです。これは、筋細胞は複数の細胞が融合してできた合胞体だからです。

筋線維の細胞質(筋形質)には、ミトコンドリアや筋小胞体などを持ち、筋収縮に重要な役割を果たしています。筋細胞膜には、落ち込んだ管状構造のT管や神経からの入力を受ける運動終板があります。軸索終末と運動終板の間のシナプスのことを神経筋接合部といいます。
1本の筋線維には原則として神経筋接合部は1ヶ所しかありません。
つまり「個々の筋線維は単一のシナプスからのみ入力を受けている」ということです。
これは、後々重要になってくるので覚えていてください。
そして、筋細胞膜の周囲を筋内膜によって包まれています。

筋線維束

筋線維束は、筋内膜によって包まれた筋線維数本〜数十本を筋周膜で包んだものです。
筋線維束は、骨格筋を肉眼的に解剖して見ることができる線維状の構造である。

骨格筋

筋線維束を更に筋上膜(深筋膜の一部)で包んだものである。

シナプス伝達

神経筋接合部において、活動電位が軸索終末に達するとシナプス前膜からアセチルコリンが分泌されます。
アセチルコリン2分子が運動終板のアセチルコリン受容体に結合するとナトリウムチャネルが開口し、脱分極によって終板電位が発生します。

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出典:骨格筋の構造と機能|骨格筋の機能|看護roo![カンゴルー]

終板電位がそれぞれ筋線維ごとの閾値を超えると活動電位が発生し、筋線維全体に活動電位が伝導して筋線維は完全収縮を引き起こします。終板電位が閾値を超えなければ、筋線維は全く反応しません。
このように刺激がある値(閾値)を超えると反応するが、少しでも刺激が閾値を下回れば全く反応しないことを「全か無かの法則」といいます。

運動単位

全か無かの法則により、筋線維に活動電位が発生するとその筋線維は完全収縮するとお伝えしました。
つまり、筋全体で発揮する力というのは、「一つ一つの筋線維が収縮する力を強めたり弱めたり調節しているのではなく、収縮する筋線維の数で決めている」ということです。
ここで重要になるのが、「運動単位」という考え方です。
1個の運動ニューロンとそれが支配する筋線維群をまとめて運動単位と呼びます。同じ運動単位に属する筋線維は同じ型の線維で、同時に収縮します。
複数の運動ニューロンから筋線維に入力があれば同時に収縮しないのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、1つの筋線維には原則1つのシナプスからしか入力を受けないのでそれが起こることはありません。

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出典:筋力増強と筋肥大の効果を最大にするトレーニング強度の最新エビデンス - リハビリmemo

骨格筋線維が3つに分類できるのと同じで、運動単位も支配する骨格筋線維によって3つに分類することができます。

Ⅰ型の筋線維(遅筋)を支配する運動ニューロンは、神経伝導速度や筋収縮は遅く、発生張力も小さいが、疲労しにくく、閾値が低い(小運動単位)という特徴があります。
それに対しⅡB型の筋線維(速筋)を支配する運動ニューロンは、神経伝導速度や筋収縮は速く、発生張力も大きいが、疲労しやすく、閾値が高い(大運動単位)という特徴があります。
ⅡA型は2つの間の特徴を持ちます(中運動単位)

このように、運動単位によって筋の収縮特性が別れていて、実際の金の中では、異なる運動単位に属する筋線維が混ざり合って存在しています。

サイズの原理

軽いものを持ち上げるとき、脊髄前角の一定の運動ニューロンプールが興奮しますが、すべての運動ニューロンが一斉に興奮するわけではありません。
先程のお伝えした閾値の小さな運動ニューロンから興奮し、徐々に閾値の高い運動ニューロンが興奮します。
そのため、筋の収縮力を徐々に強めていくとき、収縮の最初のうちは小運動単位が動員され、遅れて大きな運動単位が動員されます。これを「サイズの原理」といいます。

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出典:サルでもわかる、「サイズの原理」 - 陸上競技の理論と実践~Sprint & Conditioning~

収縮力が弱くていいときには小さな運動単位によって力を小刻みに調節し、強い収縮力が必要なときには大きな運動単位によって力を荒く増減させるということです。

まとめ

骨格筋の構造から、筋収縮力についてざっくりまとめました。
次回はこれらのことを生かして、トレーニングの重量や回数についてまとめていきます。
最後まで読んでくださってありがとうございました。

参考

  • Zsolt Radék(2018) 『トレーニングのための生理学的知識』 樋口満監訳 市村出版.
  • 坂井建雄・河原克雅編(2017) 『人体の正常構造と機能 改定第3版』 日本医事新報社.

情報が間違っている場合や、他者の権利に抵触している場合はご連絡ください。

筋発達に必要な刺激

引き続き、山本義徳さんの「ウエイトトレーニング-理論編-」を読んで、大学の講義で学んだことや自分で調べたことなどを踏まえてまとめていきます。

前回は、筋肥大にはmTORC1の活性化が非常に重要であることを書きました。

motchy-blog.hatenablog.jp

レーニングを行うことによって、mTORC1の上流にあるIGF-1というホルモン様物質が増加し、筋タンパクの合成が促進されることについても触れました。
では、なぜトレーニングによってIGF-1の増加が起こるのでしょうか?

そのためには、身体がなぜ筋を発達させるのかというところから解説していきます。

なぜ筋を発達させるのか?

結論からお伝えすると、筋に対するストレスへ適応するためです。

私達の身体は、寒冷や外傷など正常な生命活動を脅かすものに直面すると、身体をそれらから守ろうとします。
この「正常な生命活動を脅かす刺激」を「ストレッサー」と呼び、ストレッサーによって心身が起こす反応のことを「ストレス」と呼びます。
ストレッサーには、物理的なものや、精神的なもの、化学的なものもあります。
つまり、ハードなトレーニングもストレッサーになります。

私達の心身はストレスを受けると、それに「適応」しようとします。
この「適応」は3段階に分けられ、「警告反応期」「抵抗期」「疲弊期」と呼ばれます。
また、警告反応期は「ショック相」「抗ショック相」に分けられます。

ウエイトトレーニングで説明します。
ウエイトトレーニングを行うと筋肉痛や疲労が起こります。これが「ショック相」です。
数日すると筋肉痛や疲労は回復します。これが「抗ショック相」です。
更にウエイトトレーニングを続けると、筋肉が発達して同じ重量では筋肉痛や疲労が起こりにくくなります。これが「抵抗期」です。
しかし、筋肉が回復するまでに過度のウエイトトレーニングを行うと、逆に筋肉が落ちたり怪我をしたりします。これが「疲労期」です。

つまり、身体が「ストレスと感じる最低限の刺激」をトレーニングで与えることができれば、IGF-1の増加を促進し十分に筋肥大を起こすことができるのです。
逆に強すぎる刺激は、筋の減少を引き起こすだけでなく怪我の原因にもなります。
具体的には「トレーニング翌日に軽い筋肉痛があれば十分です。」
何日も筋肉痛になるようなハードなトレーニングは自己満足にしかならないのです。
筋へのダメージが多いからといって、筋タンパク合成が促進されるわけではないという研究はこちらです。

www.ncbi.nlm.nih.gov

山本義徳さんは、著書の中で「101の刺激」として紹介していらっしゃいます。

では、ウエイトトレーニングによって得られる筋への刺激にはどのようなものがあるのでしょうか?

物理的刺激

まずは、ウエイトや体重による物理的な刺激です。
筋力を向上が目的であれば、各部位ごとに1RMの80〜90%の重量で3〜6repsを2セット程度行えば、およそ十分な物理的刺激を与えることができると考えられています。
一方、筋肥大が目的であれば、各部位ごとに1RMの70〜80%の重量で8〜12repsを2セット程度行えば、およそ十分な物理的刺激を与えることができると考えられています。
筋によっては、高レップスが適している場合や低レップスが適している場合もあるので、こちらに関しては今後まとめていきます。

しかし、最近では、軽い重量でのトレーニングも筋発達を促すことが判明してきました。
それが化学的刺激です。

化学的刺激

1RMの30〜40%程度の重量で多くの回数をこなすことによって、酸素やATP、クレアチンリン酸の不足が起こります。酸素が不足した状況下でATPを作るために乳酸発酵が起こり、乳酸の増加によるアシドーシスが起こります。

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出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%B3%E9%85%B8%E8%84%B1%E6%B0%B4%E7%B4%A0%E9%85%B5%E7%B4%A0

このような筋内の化学的な刺激が、筋に化学的ストレスを与え、筋発達を促すと考えられています。
自重トレーニングで回数で追い込んで筋が発達するのはこのためといえます。

まとめ

今回は、なぜ身体は筋を発達させるのか、そしてそのために必要な刺激についてまとめました。

次回は、筋の発達に必要十分な刺激を得るために必要なトレーニングについて書いていきます。
最後まで読んでくださってありがとうございました。

参考

  • Zsolt Radék(2018) 『トレーニングのための生理学的知識』 樋口満監訳 市村出版.
  • 坂井建雄・河原克雅編(2017) 『人体の正常構造と機能 改定第3版』 日本医事新報社.
  • Damas F, Phillips SM, Libardi CA, Vechin FC, Lixandrão ME, Jannig PR, Costa LA, Bacurau AV, Snijders T, Parise G, Tricoli V, Roschel H, Ugrinowitsch C. Resistance training-induced changes in integrated myofibrillar protein synthesis are related to hypertrophy only after attenuation of muscle damage. J Physiol. 2016 Sep 15;594(18):5209-22. doi: 10.1113/JP272472. Epub 2016 Jul 9. PMID: 27219125; PMCID: PMC5023708.

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筋肥大のメカニズム① mTORC1

大学の講義で学んだことや自分で調べたことなどを踏まえて筋肥大メカニズムについてまとめていきます。

筋肥大とは

そもそも筋肥大とはどのような現象を指すのでしょうか。
それはこちらの記事にまとめているのでこちらで確認してください。

超回復理論の誤解

筋トレで負荷をかけると筋肉が壊れ、次に同じ負荷が加わったときに耐えるために筋肉が元よりも強くなって再生する現象のことを「筋肉の超回復と呼び、超回復が起こることで筋肥大が起こると思っていませんか?私も数日前まではそうだと思っていました。しかし、筋肉の超回復の正しい意味は、トレーニングによって減少した筋肉のグリコーゲンが、36〜72時間までに元の水準以上に回復する現象のことを指します。いわゆるカーボローディングのことです。
筋肉の超回復とは正しくは「筋肉のグリコーゲンの超回復のことなのです。

こちらが、運動後の脳及び筋のグリコーゲンの超回復について書かれた論文です。

www.ncbi.nlm.nih.gov

では、筋肥大が起こるメカニズムとは一体どのようなものなのでしょうか?

細胞内シグナル伝達

細胞が増殖するためには、増殖因子が受容体に結合することから始まり、受容体チロシンキナーゼのリン酸化やRas→Raf→MEK→MAPKなどを介した複雑なシグナル伝達が関与していました。記事を書きながら核酸・病態生化学の嫌な記憶が蘇ります。この機構が破綻して異常活性すればがんが生じ、細胞が異常に増殖することも知られています。これは腫瘍学で学びました。

筋も「破壊すれば筋肥大が起こる」といった単純な仕組みではなく、同じように細胞内のシグナル伝達が筋を制御しています。ここで重要になる細胞内のタンパク質がmTORC1です。mTORC1はエムトールシーワンと読みます。mTORと聞くと、がんやmTOR阻害薬のラパマイシンを思い浮かべる方もいらっしゃるでしょう。そのmTORです。
mTORC1の様々なはたらきについてはこちらの論文に詳しく書かれています。興味のある方はリンクからご覧ください。

www.ncbi.nlm.nih.gov

レーニングなどによってmTORC1が活性化することにより、その下流にあるp70s6kや4E-BP4のリン酸化が起こり、アクチンやミオシン等の筋タンパクの合成や細胞の合成が開始します。その結果、筋横断面積が増加し筋肥大が起こります。

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出典:https://www.frontiersin.org/files/Articles/111902/fphys-05-00357-HTML/image_m/fphys-05-00357-g002.jpg:image=https://www.frontiersin.org/files/Articles/111902/fphys-05-00357-HTML/image_m/fphys-05-00357-g002.jpg

では、mTORはトレーニングを行うことによってどのようなメカニズムで活性化するのでしょうか?
次回から、mTORの上流にあるシグナルについて一つずつ解説していきます。

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最後まで読んでくださってありがとうございました。

参考

  • Zsolt Radék(2018) 『トレーニングのための生理学的知識』 樋口満監訳 市村出版.
  • 坂井建雄・河原克雅編(2017) 『人体の正常構造と機能 改定第3版』 日本医事新報社.
  • Matsui T, Ishikawa T, Ito H, Okamoto M, Inoue K, Lee MC, Fujikawa T, Ichitani Y, Kawanaka K, Soya H. Brain glycogen supercompensation following exhaustive exercise. J Physiol. 2012 Feb 1;590(3):607-16. doi: 10.1113/jphysiol.2011.217919. Epub 2011 Nov 7. PubMed PMID: 22063629; PubMed Central PMCID: PMC3379704.

  • Bodine SC, Stitt TN, Gonzalez M, Kline WO, Stover GL, Bauerlein R, Zlotchenko E, Scrimgeour A, Lawrence JC, Glass DJ, Yancopoulos GD. Akt/mTOR pathway is a crucial regulator of skeletal muscle hypertrophy and can prevent muscle atrophy in vivo. Nat Cell Biol. 2001 Nov;3(11):1014-9. doi: 10.1038/ncb1101-1014. PMID:11715023.

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