筋発達に必要な刺激
引き続き、山本義徳さんの「ウエイトトレーニング-理論編-」を読んで、大学の講義で学んだことや自分で調べたことなどを踏まえてまとめていきます。
前回は、筋肥大にはmTORC1の活性化が非常に重要であることを書きました。
トレーニングを行うことによって、mTORC1の上流にあるIGF-1というホルモン様物質が増加し、筋タンパクの合成が促進されることについても触れました。
では、なぜトレーニングによってIGF-1の増加が起こるのでしょうか?
そのためには、身体がなぜ筋を発達させるのかというところから解説していきます。
なぜ筋を発達させるのか?
結論からお伝えすると、筋に対するストレスへ適応するためです。
私達の身体は、寒冷や外傷など正常な生命活動を脅かすものに直面すると、身体をそれらから守ろうとします。 この「正常な生命活動を脅かす刺激」を「ストレッサー」と呼び、ストレッサーによって心身が起こす反応のことを「ストレス」と呼びます。 ストレッサーには、物理的なものや、精神的なもの、化学的なものもあります。 つまり、ハードなトレーニングもストレッサーになります。
私達の心身はストレスを受けると、それに「適応」しようとします。 この「適応」は3段階に分けられ、「警告反応期」、「抵抗期」、「疲弊期」と呼ばれます。 また、警告反応期は「ショック相」と「抗ショック相」に分けられます。
ウエイトトレーニングで説明します。 ウエイトトレーニングを行うと筋肉痛や疲労が起こります。これが「ショック相」です。 数日すると筋肉痛や疲労は回復します。これが「抗ショック相」です。 更にウエイトトレーニングを続けると、筋肉が発達して同じ重量では筋肉痛や疲労が起こりにくくなります。これが「抵抗期」です。 しかし、筋肉が回復するまでに過度のウエイトトレーニングを行うと、逆に筋肉が落ちたり怪我をしたりします。これが「疲労期」です。
つまり、身体が「ストレスと感じる最低限の刺激」をトレーニングで与えることができれば、IGF-1の増加を促進し十分に筋肥大を起こすことができるのです。 逆に強すぎる刺激は、筋の減少を引き起こすだけでなく怪我の原因にもなります。 具体的には「トレーニング翌日に軽い筋肉痛があれば十分です。」 何日も筋肉痛になるようなハードなトレーニングは自己満足にしかならないのです。 筋へのダメージが多いからといって、筋タンパク合成が促進されるわけではないという研究はこちらです。
山本義徳さんは、著書の中で「101の刺激」として紹介していらっしゃいます。
では、ウエイトトレーニングによって得られる筋への刺激にはどのようなものがあるのでしょうか?
物理的刺激
まずは、ウエイトや体重による物理的な刺激です。 筋力を向上が目的であれば、各部位ごとに1RMの80〜90%の重量で3〜6repsを2セット程度行えば、およそ十分な物理的刺激を与えることができると考えられています。 一方、筋肥大が目的であれば、各部位ごとに1RMの70〜80%の重量で8〜12repsを2セット程度行えば、およそ十分な物理的刺激を与えることができると考えられています。 筋によっては、高レップスが適している場合や低レップスが適している場合もあるので、こちらに関しては今後まとめていきます。
しかし、最近では、軽い重量でのトレーニングも筋発達を促すことが判明してきました。 それが化学的刺激です。
化学的刺激
1RMの30〜40%程度の重量で多くの回数をこなすことによって、酸素やATP、クレアチンリン酸の不足が起こります。酸素が不足した状況下でATPを作るために乳酸発酵が起こり、乳酸の増加によるアシドーシスが起こります。
このような筋内の化学的な刺激が、筋に化学的ストレスを与え、筋発達を促すと考えられています。 自重トレーニングで回数で追い込んで筋が発達するのはこのためといえます。
まとめ
今回は、なぜ身体は筋を発達させるのか、そしてそのために必要な刺激についてまとめました。
次回は、筋の発達に必要十分な刺激を得るために必要なトレーニングについて書いていきます。 最後まで読んでくださってありがとうございました。
参考
- Zsolt Radék(2018) 『トレーニングのための生理学的知識』 樋口満監訳 市村出版.
- 坂井建雄・河原克雅編(2017) 『人体の正常構造と機能 改定第3版』 日本医事新報社.
- 山本義徳(2018) 『ウェイトトレーニング-理論編-』 Amazon.co.jp
- Damas F, Phillips SM, Libardi CA, Vechin FC, Lixandrão ME, Jannig PR, Costa LA, Bacurau AV, Snijders T, Parise G, Tricoli V, Roschel H, Ugrinowitsch C. Resistance training-induced changes in integrated myofibrillar protein synthesis are related to hypertrophy only after attenuation of muscle damage. J Physiol. 2016 Sep 15;594(18):5209-22. doi: 10.1113/JP272472. Epub 2016 Jul 9. PMID: 27219125; PMCID: PMC5023708.
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