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筋肥大のメカニズム① mTORC1

大学の講義で学んだことや自分で調べたことなどを踏まえて筋肥大メカニズムについてまとめていきます。

筋肥大とは

そもそも筋肥大とはどのような現象を指すのでしょうか。
それはこちらの記事にまとめているのでこちらで確認してください。

超回復理論の誤解

筋トレで負荷をかけると筋肉が壊れ、次に同じ負荷が加わったときに耐えるために筋肉が元よりも強くなって再生する現象のことを「筋肉の超回復と呼び、超回復が起こることで筋肥大が起こると思っていませんか?私も数日前まではそうだと思っていました。しかし、筋肉の超回復の正しい意味は、トレーニングによって減少した筋肉のグリコーゲンが、36〜72時間までに元の水準以上に回復する現象のことを指します。いわゆるカーボローディングのことです。
筋肉の超回復とは正しくは「筋肉のグリコーゲンの超回復のことなのです。

こちらが、運動後の脳及び筋のグリコーゲンの超回復について書かれた論文です。

www.ncbi.nlm.nih.gov

では、筋肥大が起こるメカニズムとは一体どのようなものなのでしょうか?

細胞内シグナル伝達

細胞が増殖するためには、増殖因子が受容体に結合することから始まり、受容体チロシンキナーゼのリン酸化やRas→Raf→MEK→MAPKなどを介した複雑なシグナル伝達が関与していました。記事を書きながら核酸・病態生化学の嫌な記憶が蘇ります。この機構が破綻して異常活性すればがんが生じ、細胞が異常に増殖することも知られています。これは腫瘍学で学びました。

筋も「破壊すれば筋肥大が起こる」といった単純な仕組みではなく、同じように細胞内のシグナル伝達が筋を制御しています。ここで重要になる細胞内のタンパク質がmTORC1です。mTORC1はエムトールシーワンと読みます。mTORと聞くと、がんやmTOR阻害薬のラパマイシンを思い浮かべる方もいらっしゃるでしょう。そのmTORです。
mTORC1の様々なはたらきについてはこちらの論文に詳しく書かれています。興味のある方はリンクからご覧ください。

www.ncbi.nlm.nih.gov

レーニングなどによってmTORC1が活性化することにより、その下流にあるp70s6kや4E-BP4のリン酸化が起こり、アクチンやミオシン等の筋タンパクの合成や細胞の合成が開始します。その結果、筋横断面積が増加し筋肥大が起こります。

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出典:https://www.frontiersin.org/files/Articles/111902/fphys-05-00357-HTML/image_m/fphys-05-00357-g002.jpg:image=https://www.frontiersin.org/files/Articles/111902/fphys-05-00357-HTML/image_m/fphys-05-00357-g002.jpg

では、mTORはトレーニングを行うことによってどのようなメカニズムで活性化するのでしょうか?
次回から、mTORの上流にあるシグナルについて一つずつ解説していきます。

motchy-blog.hatenablog.jp

最後まで読んでくださってありがとうございました。

参考

  • Zsolt Radék(2018) 『トレーニングのための生理学的知識』 樋口満監訳 市村出版.
  • 坂井建雄・河原克雅編(2017) 『人体の正常構造と機能 改定第3版』 日本医事新報社.
  • Matsui T, Ishikawa T, Ito H, Okamoto M, Inoue K, Lee MC, Fujikawa T, Ichitani Y, Kawanaka K, Soya H. Brain glycogen supercompensation following exhaustive exercise. J Physiol. 2012 Feb 1;590(3):607-16. doi: 10.1113/jphysiol.2011.217919. Epub 2011 Nov 7. PubMed PMID: 22063629; PubMed Central PMCID: PMC3379704.

  • Bodine SC, Stitt TN, Gonzalez M, Kline WO, Stover GL, Bauerlein R, Zlotchenko E, Scrimgeour A, Lawrence JC, Glass DJ, Yancopoulos GD. Akt/mTOR pathway is a crucial regulator of skeletal muscle hypertrophy and can prevent muscle atrophy in vivo. Nat Cell Biol. 2001 Nov;3(11):1014-9. doi: 10.1038/ncb1101-1014. PMID:11715023.

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