筋肥大のメカニズム② IGF-1
前回、筋肥大にはmTORC1の活性が鍵となるとお伝えしました。
今回は、mTORC1の上流にあるIGF-1について解説します。
IGF-1とは
IGF-1とは、Insulin-like growth factor 1 の略称のことで、日本語ではインスリン様成長因子といいます。古い呼び方では、ソマトメジンCとも呼ばれます。 インスリン様と呼ばれるように、インスリンに似た構造をしておりタンパク質ホルモンです。受容体は細胞膜上にあり、受容体チロシンキナーゼです。
体内では、主に肝臓で内分泌(エンドクリン)ホルモンとして産生されます。 受容体は体中のほぼ全ての細胞に存在し、特に骨格筋、軟骨、骨、肝臓、腎臓、神経、皮膚、造血系、肺の細胞に対して成長を促進します。DNA合成の調節も行っています。 また、これらの標的となる多くの組織でもIGF-1を産生することができ、傍分泌(パラクリン)や自己分泌(オートクリン)によっても細胞の成長を促進しています。 インスリン抵抗性やエストロゲンの制御にも関与していると言われています。
IGF-1の作用機序
IGF-1の産生は主に脳下垂体前葉から分泌される成長ホルモン(GH:growth hormone)によって制御されています。 成長ホルモンが筋肉や肝臓などの成長ホルモン受容体に結合すると、IGF-1の産生が増加します。
そのため、サプリメントなどで摂取することは、オリンピックなどの多くの国際大会などでドーピングとして禁止されています。しかし、成長ホルモンの分泌を促進することで知られている物質があります。それはアミノ酸のアルギニンです。
アルギニンの摂取は、ボディービルダーの間で好んで行われています。 成長ホルモン分泌刺激試験のために医療現場でも使われています。
また、タンパク質摂取が多いほどIGF-1多いという研究もあります。
IGF-1が受容体に結合すると、受容体が活性化して自己リン酸化を起こしIRS1/2をリン酸化し活性化させます。活性化したIRS1はPI3K という酵素を活性化します。PI3KはAKTを活性化し、AKTはTSC2を阻害します。更ににAKTはRaptorからPRAS40を解離させ、PRAS40を阻害します。TSC2とPRAS40はmTORC1の阻害因子なので、IGF-1によってmTORC1が活性化します。 これによって、筋肥大が促進されます。
トレーニングとの関係
70%VO2maxや70%1RM以上といった高強度のの筋力トレーニングを行うと、トレーニングの10〜20分後に成長ホルモン濃度が増加します。 成長ホルモンの刺激によって肝臓や筋におけるIGF-1の分泌が増加し、筋肥大を促進します。
また、機序は未解明な部分があるものの、トレーニングの物理的刺激によっても筋におけるIGF-1の分泌が増加するということが分かっています。
高強度の物理的刺激によって筋が損傷し炎症が起こると、筋にマクロファージが集まってきます。集まってきたマクロファージは、筋を回復させるためにIGF-1を分泌するということもわかっています。
このように、高強度のトレーニングによるIGF-1の分泌の増加がmTORC1の活性を促し、筋肥大に大きく影響しています。 次回は、IGF-1の亜型であるメカノ成長因子(MGF:mechano growth factor)についてまとめていきます。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
参考
- Zsolt Radék(2018) 『トレーニングのための生理学的知識』 樋口満監訳 市村出版.
- 坂井建雄・河原克雅編(2017) 『人体の正常構造と機能 改定第3版』 日本医事新報社.
- 山本義徳(2018) 『ウェイトトレーニング-理論編-』 Amazon.co.jp
- ollier SR, Casey DP, Kanaley JA. Growth hormone responses to varying doses of oral arginine. Growth Horm IGF Res. 2005 Apr;15(2):136-9. doi: 10.1016/j.ghir.2004.12.004. Epub 2005 Jan 26. PMID: 15809017.
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